2022年4月
Stay hungry , Stay foolish
スティーブ・ジョブズの仏教感
2011年享年56歳で亡くなられたアップルの創業者スティーブ・ジョブズは誰もがご存じでしょ
う。しかし、彼が仏教徒だったとはあまり知られていません。
スティーブ・ジョブズ氏は、仏教に対し、非常に深い関心と理解を持っておられたそうです。
スティーブ・ジョブズ氏が、2005年6月12日にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの
締めくくりとして、卒業生へ送った言葉は有名ですね。Stay hungry,Stay foolish 直訳すれば
「ハングリーであれ、愚かであり続けろ」ということになります。スピーチは、「点と点を繋
ぐ」「愛と喪失」「死」の3つの実体験を学生に語りかけ、最後に学生へのメッセージとして
表題の言葉を贈る形で締めくくられています。
「点と点を繋ぐ」「愛と喪失」「死」このフレーズが非常に印象的で、閉塞感が漂う現代社会
を生きる私たちにとって、普遍的で、非常に大切な言葉であり、仏教にも通じる言葉でもあるよ
うです。Stay hungryとは、挑戦する心を持つことの大切さを語っており、ともすれば現状維持
、安易な方向に流されがちな自分に対する叱咤激励、すなわち「これで良いのか問い続けなさ
い」という励ましでではないでしょうか。
また、Stay foolishとは、周囲の意見や世の中の常識・慣例に捉われ、利口さを演じてしまう自
分、アイデンティティを見失いがちな自分、また常に自分は正しいと我を張っている自分に気
づかされる言葉、すなわち「自分を守ることに執着していませんか」というメッセージとも捉
えられます。
浄土宗の祖である法然上人は、「浄土宗の者は愚者となりて往生す」と言っておられます。
これは愚者、すなわち「愚かな身、どうしようもない自分であることに気づきなさい。本当に
そのことに気づくことができれば、自分に対する執着から解放され、平穏に暮らすことができ
ますよ」ということで、愚かな身であることを気づかせてくれるのが念仏ですよと説いておら
れます。
念仏とは、今がこれでいいか問うことですので、法然上人は「今がこれでいいかを問うことに
よって、愚かな自分というものに気づきますよ。その気づきが執着にまみれる自分を救ってく
れるのですよ」ということをおっしゃりたかったのではないでしょうか。そう考えますと、
Stay hungry ,Stay foolishというジョブズ氏のメッセージは、「今がこれでいいか問い続けなさ
いよ、愚かな身である自分に気づきなさいよ」という温かみのある励ましのように聞こえてき
ます。
補足
人生の時間軸には3つあると思います。一つ目は過去。私たちは過去に囚われがちです。ともする
と、過去に引きずられることもしばしば。よく夫婦喧嘩などしてその後、相手を許すことがあり
ますね。しかし、また同じことで喧嘩が勃発することもよくあります。その際、あの時あんなこ
と言っただとかあの時と同じやったとか言いますが、結局相手を許していないから過去を引きず
る訳です。だから、許すということは、忘れることなのです。
それに過去はすでに過ぎ去ってしまったものです。嫌でも時間は先に進みます。なので、あまり
過去の事に囚われない生き方が好ましいでしょうね。大切なのは、同じ過ちを繰り返さないこと
です。二つ目は未来です。私たちが抱える問題のほとんどが未来のことではないでしょうか。
大学卒業間近の学生にアンケートをとると、高い確率で将来に不安を抱えている学生が多いよう
です。大学を卒業し会社に入社して約40年勤めてその時に年金はあるんだろうかという不安だそ
うです。40年も先のことですよ。。。
明日のことも分からないような今の現代社会、今年に入りこの21世紀に戦争が起こるなど誰が想
像できたでしょうか。スマホが普及しだして約12年ですが、12年前に誰がスマホ時代がくるなど
予想できたでしょうか。世の中は目まぐるしいスピードで変化し続けています。将来への不安の
問題は恐らく取り越し苦労することがほとんどです。大切なのはその時にどう考えて、どう動く
のかではないでしょうか。三つ目は今です。仏教は今を生きる為の教えです。今の積み重ねが振
り返ると過去になり、今の積み重ねがいづれ未来へとなります。したがって一番大切な時間軸
は、「今でしょ!」そのことを、ジョブズ氏のスピーチを聞いて感銘を受けたことです。
今を大切に生きましょう。